民法総則の解説
(成年被後見人の法律行為)
第九条 成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。
≪解説≫
後見開始の審判があった場合につき、確認しておきましょう。
家庭裁判所は、本人のために、法定代理人を選任します(8条)。
これに対し、民法上の成年後見の開始には、家庭裁判所の審判が必要です。
本人は、原則として、みずから行動して、法律行為をすることができなくなります。
つまり、後見人が代理するのが、原則です。
未成年者と異なり、同意を得て、法律行為をするということはありません。
原則として、本人の行為は、取り消すことができるようになります(9条本文)。
後見人の同意があったとしても、取り消すことができます。
原則には、例外があります。これから説明します。
≪解説≫
成年被後見人の行為能力について、原則と例外を説明しておきます。
成年被後見人の法律行為は、取り消すことができます(9条本文)。
これが、原則です。
未成年者と異なり、同意を得て、法律行為をするということはありません。
したがって、後見人の同意があったとしても、取り消すことができます。
例外は、次の場合です。
「日用品の購入その他日常生活に関する行為」(9条ただし書)。
日用品とは、衣服や食料など。
日常生活に関する行為とは、水道光熱費の支払、そのための預貯金の引出しなどを意味します。
例外を規定したのは、自己決定権を尊重するためです。
また、日用品の購入や日常生活に関する行為についてまで、いちいち取り消すことができると、取引の安全を害することになる、という配慮もあります。
≪解説≫
成年被後見人の行為の取消しについて、解説します。
成年被後見人の法律行為は、取り消すことができます(9条本文)。
未成年者と異なり、同意を得て、法律行為をするということはありません。
したがって、後見人の同意があったとしても、取り消すことができます。
後見人ばかりでなく、本人も、取り消すことができます(120条1項)。
本人が取り消した場合、「取り消したことを取り消す」と言うことができるのでしょうか?
それはダメ!
相手方が、あまりにも不安定になるからです。
未成年者の場合も、そうでしたね。後見、保佐、補助でも同じです。
いったん取り消した以上、初めから無効だったことに確定します(121条本文)。
≪解説≫
ここで、意思能力について、説明しておきます。
権利能力・行為能力のほかに、意思能力という概念があります。
意思能力のない者の行為は、無効です(大判M38.5.11)。
このことは、規定はありませんが、当然のこととされています。
民法における私的自治の理念は、当事者の意思に基づいて、権利義務関係が作られていくというものです。
そこで、当事者の意思に基づいているといえない場合、つまり意思能力がない場合は、無効とされるのです。
子供でいえば、6~7歳くらいから、意思能力が備わるといわれています。
泥酔や麻薬中毒によって、意思能力が否定されることもありえます。
ところで、「事理を弁識する能力を欠く常況」にあるのが、成年被後見人です(7条)。
それなら、意思能力がないはずだから、取消しではなく無効か、と考えられます。
民法は、無効を主張してもよいが、一律に取り消すことができる、としたのです。
なぜでしょう。
意思能力による無効は、個々の行為ごとに、立証しなければなりません。
しかし、きちんと意思表示できない人に、「立証せよ」というのは酷です。
ですから、一律に取り消すことができるとしたほうが、実質的な保護が図れるわけです。
ちなみに、成年被後見人であっても、意思能力のある状況で意思表示をすれば、完全に有効とされることがあります。
婚姻・離婚などの身分行為は、特に本人の意思を尊重すべきなので、後見人が代理することは許されません。